がん遺伝子パネル検査

がん遺伝子パネル検査とは、一人一人のがんの発生に関わる複数の「がん関連遺伝子」の異常を一度に調べる検査のことです。患者さんのがん組織や血液からDNAやRNAなどを取り出し、「がん関連遺伝子」に異常があるかどうかを解析します。いくつかの施設や企業が開発した検査があり、それぞれ、調べる対象(がん組織、血液)、調べるがん遺伝子の種類やどのような異常を調べるかなどが異なります。各検査が解析対象としているがん遺伝子のセットのことを「パネル」とよびます。
がん遺伝子パネル検査の目的は、一人一人の患者さんのがんが持つ遺伝子異常を明らかにし、それぞれの患者さんにふさわしい治療を行うことです。本邦では2019年6月より、いくつかのがん遺伝子パネル検査が健康保険の適用対象となりました。ただし、がん遺伝子パネル検査を受けても、遺伝子異常が見つからないことや見つかった遺伝子異常に対する治療法がまだ確立されていないという場合もあることにご留意ください。これまでのデータではがん遺伝子パネル検査を受けることで遺伝子変異に基づいた治療につながる割合は10%前後とされています。また、がん遺伝子パネル検査の種類によっては、患者さん自身のがんに関わる遺伝子異常だけでなく、ご家族(血縁者)が同様な遺伝子異常を持っている可能性があること(いわゆる遺伝性腫瘍の可能性)が発見されることもあり、検査を受けるかどうかについてはご家族の方ともご相談ください。

がん遺伝子パネル検査で調べるがん関連遺伝子異常、費用、対象となる患者さんなどは年々変わります。ここで記載した内容はあくまで2022年4月現在の情報ですので、検査をご希望される場合、または検査について最新の情報や詳しいことをお聞きになりたい場合は、まずはかかりつけの主治医にご相談ください。

質問

Q1. がん遺伝子パネル検査は誰でも受けられますか?

2022年6月現在健康保険の適用となるがん遺伝子パネル検査には、OncoGuideTM NCCオンコパネルシステム、FoundationOne® CDxがんゲノムプロファイル、FoundationOne® Liquid CDx がんゲノムプロファイル の3つがあり、これらを受けることができるのは、次の①または②に該当し、かつ、全身状態が比較的よい患者さんと定められています。 また、最終的に検査を受けてよいかどうかの判断は主治医やがん遺伝子パネル検査担当医が行います。(※)
①原発不明がんや希少がんなどの標準治療がない固形がんの患者さん
② 局所進行もしくは転移があり、標準治療(※※)が終了したあるいは終了が見込まれる固形がんの患者さん
(※)がん遺伝子パネル検査はどの病院でも受けられるわけではありません。検査を実施できる病院については国立がん研究センターがんゲノム情報管理センターのウエブサイトをご参照ください。
(※※)標準治療に関しては、胆道癌に対する抗癌剤治療の項をご参照ください。

Q2. がん遺伝子パネル検査の費用はどのくらいですか?

上記に挙げた健康保険の適応になる検査の場合、保険点数は5万6千点(すなわち56万円)で、そのうち1-3割が患者さんの自己負担となります。また、その他の検査(自由診療で行う検査)は検査によって費用も大きく異なり、また、年々新しく開発される検査もありますのでここでは省略します。必要に応じてかかりつけの主治医にご相談ください。

Q3. 胆道癌のがん遺伝子パネル検査で見つかる異常にはどのようなものがありますか?

胆道癌は、発生部位によって、肝内胆管がん、肝外胆管がん(肝門部胆管がん、遠位胆管がん)、胆のうがん、十二指腸乳頭部がんの5つに分けられます。そして、その発生部位によって関連する遺伝子異常の頻度が大きく異なることが分かっています。胆道癌で見つかる頻度の高い遺伝子異常としては、IDH1遺伝子の変異(肝内胆管がんの20%程度)、HER2遺伝子増幅(胆のうがん、肝外胆管がん、乳頭部がんの10-20%、肝内胆管がんの約5%)、FGFR2遺伝子異常(肝内胆管がんの5-10%)、高頻度マイクロサテライト不安定性(胆道癌全体の2%程度)、PI3K/Akt/mTOR経路上の遺伝子異常、その他があります。

Q4. 胆道癌のがん遺伝子パネル検査でどのような治療薬が見つかる可能性がありますか?

FGFR1/2/3 遺伝子の変異に対する FGFR 阻害剤や高頻度マイクロサテライト不安定性などに対する免疫チェックポイント阻害剤、ERBB2 遺伝子の変異に対する HER2 阻害剤、 PI3K/Akt/mTOR 経路上の遺伝子異常に対する PI3K 阻害剤、CDKN 遺伝子変異に対するCDK 阻害剤などが見つかる可能性があります。この中で、2022年4月時点で胆道がんに対し保険承認されている薬剤にはFGFR阻害剤と免疫チェックポイント阻害剤があります。残りの薬剤については現在臨床試験などがおこなわれていますが、保険承認はされていません。 前述しましたように、パネル検査を受けても治療薬が見つからないこともあります。また、年々、薬剤開発が進んでいます。治療薬に関しては主治医に最新の情報をご確認ください。